何か良かった過去を指して「あの頃は良かった」と主張する人は多い。自分もそのように考えるようなことは数多くある。

しかしそこから短絡的に「あの頃の状態に戻そう」とするのは多くの場合間違っている。仮に、人は過去を美化しがちだというバイアスを取り除いてなお実際にその頃の方が幸福だったとしてもだ。

まず第一に、「過去は良くて現在は良くない」という主張をしている以上、過去の状況と現在の状況は違うということが前提になるわけだが、時間は過去から現在に流れている以上、「その過去の良かった状態は現在の状態に遷移している」という動かしがたい事実がある。

「現状は悪い」を真とするなら、「過去の状態に戻す」ことは「未来において再び現状と同じ状態に戻る」可能性が高いことになる。悪い状態に遷移する可能性が高いならば、その過去は潜在的な意味で「悪い状態」と言わなければならない。