ストーリー作品に対する個人的な好みの話なのだが、「登場人物が短期間で人間の弱さを乗り越える作品は信頼できない」というものがある。

例えば他人に嫉妬するだとか卑屈になるだとか、あるいは油断したり放漫になったり、人間らしさというのはそのようなマイナス面を含む。そのような「良くなさ」を登場人物が乗り越えるというパターンは、物語における一つの軸やパーツとして非常に古典的で王道なものだと思うのだが、登場人物がそれを容易にあるいは完璧に成し遂げるというのは若干の違和感がある。

人間らしい良くない面を頻繁に出し、それに思い悩んだり、乗り越えたと思ったら完璧にとは言えないほどであったり、そのようなキャラクターの書き手はとても信頼できる。どこまでいっても「3歩進んで2歩下がる」を基調とするような完璧たりえない在りかたは、読み手として寄り添いたくなる現実的な人間として好感が持てる。

逆にそのような面がまるで出ていないような場合は「ああ、このキャラクターは人間の皮を被った人間ではない存在なのだな」ということで納得できる。読み手としては寄り添おうというより、ある種の「憧れ」となる。人間の皮を被りながら、内実としては人間の理想像の一種である。ずっと見ていたい、人間でありながら人間でない理想である。

しかし、マイナス面を出しておきながらそれを簡単に乗り越えられてしまうと、どちらに片付けてよいものか分からなくなる。「キャラクターが弱さをこのように乗り越えた」を筆者は提示したいのかもしれないが、泥臭くかつ非完璧な形で乗り越えていないと、個人的にはうーんとなる。

感情移入もできないし、憧れることもできない。

恐らく自分が読み方を知らないだけなのだが。